返報性の原理をセールスで応用する
人はよく考えて行動しているようで、実は何も考えていません。怠け者でめんどくさがりです。だから、人は思考や行動をパターン化します。ステレオタイプや経験則などで考えずに行動できるよう自動化するのです。
たとえば、朝起きたら『おはよう』と言います。この時何か考えてますか?
あなたのイメージする博士や医者は、白衣を着ているはずです。
『安いもの=質が悪い』とパターンで考える傾向にありますよね。
様々なことを考え、選択し、行動しなければならない人間社会の中で、できるだけ間違いを少なくし、ストレスなく、ラクに動けるよう、私たちは気付かないうちに小さいころから人間社会のルールを叩き込まれているのです。
セールスでは、人の自動的・固定的行動パターンを利用したテクニックがあります。その一つが、心理学で言われている『返報性の原理』 です。
『返報性の原理』とは、『何かもらったらお返ししなければならない』という心理作用のことです。年賀状をもらったら返すというのがわかりやすい例えでしょうか。セールスでは、試食や試着、無料お試しキャンペーンなどに利用されています。
人は生き残るために、このようなギブアンドテイクの文化を形成したと言われています。武器や道具を作る技術を与え、食料をもらう。このような大昔からの相互依存の文化によって、受けた恩義には必ず報いなければならないという義務感が生まれました。さらに、お返しをしない人は恩知らず、自分勝手と蔑まれ嘲笑の的となりました。返報性のルールは、守らないと社会的不承認を得ることになるのです。
セールテクニックにおいては、この返報性の原理を応用した『ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック』が有名です。最初に大きな要求をし、それを拒否させた後、それより小さな本来の要求をするというものです。返報性の原理を応用したこのテクニックが利かないわけがありません。大きな要求から小さな要求に変更したことで、相手に『譲歩』を与えることが出来るのです。こちらが譲歩したのだからあなたも譲歩してください、ということです。相手は、一度断った罪悪感、譲歩してもらった恩義、譲歩させたことへの満足感を得ます。
また、大な要求と小さな要求を比較することによって、小さな要求がより小さく見えるという『コントラストの原理』の心理作用までもが働きます。結果として本来の要求へ自動的に承諾してしまうことになります。
セールスは断られて(断らせて?)からが勝負です。そしてこれは、精神論や根性論ではなくテクニックなのです。
足ほど正直に人の感情を表すものはない
顔の表情や身振り手振り、声のトーンなど言葉以外の手段を使って意志や感情を伝えることをノンバーンバル(非言語)コミュニケーションといいます。ボディランゲージのことです。
海外で言葉が通じなくても身振り手振りで何とかなったという話はよく聞きます。ボディランゲージで、自分の意思や感情を相手に伝えることができます。
逆に考えると、ボディランゲージには、自分が気付かないうちに体が勝手に動き自分の意志や感情を知らず知らずのうちに周囲に明かしているということにもなります。
このような何気ないしぐさの意味を知り、観察することで相手が何を考えているかが分かり、自分の伝えたいことを言葉以外で伝えることもできるのです。
では、体の中で一番正直なのはどこでしょうか?
人が本当にしようとしていることを一番物語る部分、その人が考えていることを正確に反映するノンバーバルシグナルを探すべき場所、それは『足』です。
私たち、人間の祖先がアフリカの草原で直立歩行を始めて以来『足』が世界中に人間を運びました。人間が言葉を話すようになる前から『足』は周りの危険から逃げ、時には危害を加えるものに向かって蹴ることで攻撃したりしてきました。
『足』は人間が生きる残るため、立ち止り、逃げ、そして攻撃し続けてきたのです。無意識の反応です。『足』は正直に人の感情を表します。
片足のつま先が上に向いている・・・うれしい、上機嫌
片足のつま先が出口に向いている・・・立ち去りたい
片足のかかとが浮いている・・・立ち去りたい
両足を広げている・・・縄張りの主張
足を交差させている・・・心地良い
両足が固い、固定されている・・・不快
足は最も正確に人の感情の情報を伝えています。足を注目することで相手の音無き言葉が聞こえてくるようになるでしょう。
人は、得した喜びより損したショックの方が大きい
行動経済学における最も代表的な理論の一つとして『プロスペクト理論』という考え方があります。人間は目の前に利益があると、利益が手に入らないというリスクの回避を優先し、損失を目の前にすると、損失そのものを回避しようとする傾向があります。
一般的に人は、得した喜びより損したショックの方が大きいと言われています。100万円得する行動より、100万円損しない行動を選ぶということです。プロスペクト理論の価値関数グラフでは、200ドル得する喜びを 『+25』 とすると、200ドル損する悔しさを 『-50』となり、2倍の感情的な開きがあります。
ですから相手を行動させたい時、訴えるべきは『損』ということになります。人は得しそうな時、なるべくリスクを回避しようとしてその場に留まります。人は損しそうな時、状況を打開するため行動しようとします。
セールスにおいては、競合商品に浮気させないため相手をその場に留めたいのか、購入に向けてあるいは行動させたいのか、によって訴え方を変化させなければならないのです。
ペースを合わせることで、無意識のうちに相手は好意を感じる
ペーシングとは相手に合わせることです。ペーシングにおいて相手に合わすべきポイントは3つあります。
『b・m・w』と言われています。
『b』=body language(ボディーランゲージ)=『ミラーリング』
仕草を真似ることです。
『m』=mood(ムード)=『チューニング』
感情の周波数を合わせることです。
相手が喜んでいれば喜び、悲しんでいたら悲しむということです。相手が100で怒っていたら、あなたは100で謝るということもチューニングになります。感情だけでなく、そのレベルを合わせることが重要です。
『w』=word(ワード) → 『マッチング』
話すスピードや高低、話し方、表現方法、声の大小を合わせることです。子供には『犬』と言わず、『ワンワン』と言ったりすることなどがそうです。
ペースを合わせることで、無意識のうちに相手は好意を感じるのです。
マインドコントロールの型
悪徳商法やカルト教団などが使うマインドコントロールにはある決まった型があります。
①夢を描かせる
共に行動すれば夢が実現できることを説き、感情を盛り上げます。
②理論や確かそうな証拠の提示
理論的に正しいこと、数値や証拠映像などきちんとした裏付けを見せます。
③現状を理解させ、絶望感を与える
今の状態ではダメだということを確実に認識させます。
④理想に近づくためのロードマップを敷く
この道をいぽいっぽ進めば、必ず理想にたどり着くようなロードマップを敷いてあげます。
⑤支援を約束する
後ろ盾となりあなたを支えることを約束します。
セールス戦略の組み立て方に近いものがあります。
知識として知っておいて損はないでしょう。
信頼感・安心感がある人同士は同じような行動をとる
信頼し合っている者、安心し合っている者同士は、その行動は無意識に同化する、心理学上の姿勢反響現象です。
「信頼感・安心感がある人同士は同じような行動をとる、だから、同じような行動をとると信頼・安心を得ることができる」これを使ったテクニックが、ミラーリングです。
相手が手をあげたら自分も手をあげ、相手が足を組んだら自分も足を組むのです。重要なのは、いつ使うか?ということです。これを間違うと気持ち悪がられてしまいます。さりげなく使わないといけないのですがさりげなくといわれても抽象的でなかなか難しいのではないでしょうか?
自分なりにさりげなくミラーリングしても違和感を持たれてしまいます。そして、一度違和感を持たれてしまうと、改めて信頼・安心を築くのは難しくなります。相手に気づかれない必要があるのです。
ここで、相手に気づかれないときとはいつなのでしょうか?
それは、相手の顕在意識が内側にある状態のときであり、潜在意識が外側にあるときになります。
たとえば、あなたが商品について説明しているとき、相手はあなたの話を聞き、商品を見ています。そのとき、相手の顕在意識は商品、つまり外側にあります。自分以外の外部の何かに意識が向いている状態です。このときに、いくらさりげなくミラーリングしても相手は違和感に気づきます。
逆に相手に、「好きなものは何ですか?」「お昼に何を食べましたか」などの質問をすると相手は考えます。この場合相手の顕在意識は内側に行きます。う~ん・・・って考えている数秒、周りの景色が見えているようで見えていない状態なのです。この瞬間、相手の潜在意識が外側に出ています。
そしてこの瞬間がミラーリングのタイミングになります。
相手があごに手を当てたら、あごに手を当ててください。多少わざとらしくても気づかれません。
ミラーリングは相手の潜在意識に働きかけなければなりません。
潜在意識を相手の外側に出す働きかけが、このテクニックを強力なものにするのです。
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