2006年8月、JR北陸線の特急電車「サンダーバード」の車内で女性が強姦されました。
40人もの乗客がいましたたが、だれも犯行を止めれませんでした。
車掌や外部に伝えることもできませんでした。
40人もの乗客がいた「のに」誰も助けなかったのか。
それとも40人もの乗客がいた「から」誰も助けなかったのか。
人は、周りに大勢の人がいる場合で、だれかが緊急事態に陥ってしまったとき、つい知らんぷりをしてしまいます。

それには2つの理由があります。
1つ目は、「だれかが助けてくれる」とみんなが考えてしうからです。
人はだれしも、面倒ごとに巻き込まれたくはありません。
これだけ人がいるんだから、自分よりもっと強くて正義感のある人が、きっと助けるだろう…みんながそう思ってしまうんですね。
結局、だれも助けないということになります。
2つ目は、自分には緊急事態のように見えても、周りのみんなが落ち着いているように見えるから、緊急事態ではないと間違った判断をしてしまうからです。
他のみんなも実は、周りの反応を見て緊急事態かどうかを知ろうとしているため、結果として動けなくなります。
これは、心理学における社会的証明の原理の集合的無知の効果です。
社会的証明の原理とは、みんながやっていることは正しい、と人は自動的に判断してしまう法則です。

集合的無知とは、不確かな物事について判断しようとしたとき、みんなが他の人の行動によって何が正しいのかを判断しようとしてしまうことで、結果として何も正しいことが分からない状態になってしまうことです。
「サンダーバード」の車内で女性が強姦されたとのことですが、これが犯罪なのか、恋人同士のもめごとなのかの判断は難しいと思います。
緊急事態っぽいですが、「不確か」な状況です。
みんなは周りの反応に手掛かりを求めたのではないでしょうか。
周りを見ると誰も動いていない。
…緊急事態じゃないんだな。
そう判断してしまったのかもしれません。日常生活の中で「不確か」な状況に遭遇した際、「緊急事態ではない」ことがほとんどです。
自分が反応したのに緊急事態でなかった場合、他人からあわてんぼうと思われたり、冷静な人ではないとレッテルを貼られたりします。
笑われてしまうかもしれません。
とても恥ずかしい思いをします。

ほとんどのケースでみんながやることは正しく、自分ひとりしかやっていないことは間違っているということを学びます。
自分だけ一人だけ違う行動をして先生に怒られた、自分だけ待ち合わせの時間を勘違いしていた…
このような小さな経験を積み重ねることによって、人は、みんながやっていることは正しいと自動的に判断するようになるのです。
人が集団になると助けてくれなくなるのは、不親切だからではありません。
確信が持てないからです。
では、いざ自分が集団の中で緊急事態に陥ったとき、どうすればよいでしょうか。
助けの求め方にはポイントがあります。
喚いたり、叫んだりしても役には立ちません。
注意を引き付けることができるくらいです。

ポイントはたったの2つです。
①「助けて」と言う。
大袈裟かな…、図々しいかな…、恥ずかしいな…と思う必要はありません。
はっきりとできるだけ大きな声で「助けて」と言いましょう。
②集団の中の1人に指をさす。
「赤い帽子のあなた、助けてください!」
こんな風に、だれでもいいから指定しましょう。
指定しないと、だれかが助けるだろう…という心理が働いてしまいます。

この2つのポイントさえ実行すれば、助けてほしいのかそうでないのかという不確かさがなくなります。
一人の人が助けてくれれば、必ず周りの誰かも助けてくれます。

不確かで戸惑っているだけで、本当は親切な人たちばかりなのですから。助けの求め方は、覚えておいてほしい重要なテクニックです。
事故にあって動けなくなったとき、いじめられて精神的に追い込まれてしまったときなどにも使えます。
ぜひあなたの周りの大切な人にも教えてあげてください。
コメント