人は一人で生きていくことはできず、太古の昔から群れで生きてきました。
群れから離れることは死を意味しました。
仲間外れにされないような態度を取り、行動してきました。
人は本能で仲間外れにされないような行動をとろうとします。
このような人間の本能的で自動的な反応を利用した、社会心理学の承諾誘導テクニックの一つが一貫性の原理です。
人は自動的に一貫性のある人は誠実な人と考え、逆に言葉と行動に一貫性のない人は、頭がおかしい人、あるいは裏表のある人と考えてしいます。
そして人は、自分が一貫性のある人間だと思ってもらいたい欲求を持っています。
不誠実な人というレッテルを貼られ、仲間外れにされるのを避けたいからです。
ひとたび決定を下すと、その決定と一貫した行動をとり続けてしまいます。
パチンコ屋に朝から並んで、お目当ての台を確保したとします。
前日に下見し、朝から並んでやっと確保した台です。
朝一に少々ハマって低設定の香りが漂ってきたとしても、事前に心に決めていた一定の金額までは打ち続けてしまうのは、一貫性の原理の圧力に他なりません。
自分の下した決定の正しさを信じ、一貫した思考を持ち続けようとして、気づいた時には財布が空っぽになってしまうのです。
セールスにおいては、お客さんに一貫した行動を取ってもらうために、コミットメントしてもらいます。コミットメントとは、立場をはっきりさせるということです。

承諾を誘導する際に、ある行動を取らせたり、言ってもらったりするよう仕向け、立場を明確にしてもらいます。お客さんは、その行動や自分が言った言葉によって一貫性の圧力がかかり、自然に承諾するようになります。
アメリカの中古車販売のマニュアルにはこう書かれています。
「契約書の前に座らせなさい。お客にOKと書かせなさい。前金を払わせなさい。価格がよければ今すぐ車を買うかどうか答えさせなさい。態度を明確にさせなさい。」
セールスの現場ではテストクロージングと言われており、ステップごとに一つ一つお客さんの確認を取っていくよう、営業マンは指導を受けます。
そうすることにより、一貫性の圧力がかかり、お客さんが承諾する方向に向かうからです。
慈善活動への寄付依頼にはこんな話法マニュアルがあります。
『こんにちは、○○さん!お元気ですか?最近調子はどうですか?』
「うまくいっています!」
『それは良かったです。不幸にも○○で被害を受けた人たちを助けるために募金に協力いただけないかということで、連絡差し上げたところだったのです。』
こんな流れで寄付を求められたら、断りづらいと感じますよね。
一貫性の原理を意図的に使ったセールステクニックの分かりやすい例です。
販売員は、小さなものを買わせることから始めて、大きなものを購入させるという方法を取ります。
小さなものの販売の目的は利益を得ることではありません。コミットメントさせることにあります。
小さな注文を取ることから始めて、そこから商品全体へと拡大していくための道を開くという考え方ですが、これは何もセールスに限ったことだけではありません。
ビジネスをやっている人なら誰しもが自然に行っていることです。
小さいことから始めて、そこから築き上げる。きわめて当たり前のことをセールスなどの承諾誘導に活かしているだけのことです。
このテクニックは「フット・イン・ザ・ドア」と言われています。
小さなことから大きなことの間の共通点をお客さん自身が見つけ、自然に一貫性の原理を作用させるようになる、というのが一貫性の原理が強力である理由です。
セールスにおいては、お客さんからの問い合わせ自体が、最初のコミットメントになります。
売る商品が高額であればあるほどお客さんのことを深くヒアリングする必要があります。
勤め先や年収など、普通の会話では質問しにくいようなことでも、一貫性の原理を使えば自然なヒアリングができます。
「○○についてお問い合わせいただいたとのことですが(興味があるから問い合わせしてきたんですよね?)、少し確認させていただいてよろしいでしょうか?」
このように尋ねて、小さなことから質問してみてください。ビックリするくらいヒアリングできるようになります。
一貫性の原理を理解し、コミュニケーションを取る様々な場面で活かしてみてはいかがでしょうか。
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