人に影響を与える上で最も強力なテクニックは、返報性のルールです。
これは、他人から何か恩恵を受けたらお返しをしなくてはならないというもの。
実際にそんなルールがあるわけではないですが、何か施しを受けたらお返ししてしまうという人間の自動的な反応です。
人に親切にしてもらったら自分も親切にしなさい、などと家庭や学校で教わったのではないでしょうか。
ある大学教授が不特定多数の人にクリスマスカードを送る実験を行ったところ、山のように返事が来るという結果になりました。
見ず知らずの人に対して、ロクに調べもせず返事を書いてしまうのが人間なのです。

他人から恩恵を受けたのであれば将来必ず報いなければならない、と自然に思ってしまうのには理由があります。
まず一つは、そう教育されてきたからです。
私たちの先祖が食料や技術を共有することで生き残ってきたという歴史があります。
人間はお互いに足りないものを補い合い、助け合ってきたからこそ大きく発展することができました。
それが社会のルールとして私たちに身についているのです。
もう一つが、申し訳ない気持ちです。

恩恵を受けると人は負担に感じます。
お返ししないと「恩知らず」のレッテルを張られ、社会から爪弾きにされます。
嫌われてしまうのです。
人は一人で生きていけない生き物ですから、コミュニティからはじき出されるような行動は取りません。
負担を感じることで、「自然に恩返しをするように行動します。
この二つの理由が、返報性のルールを強力なものにしています。
返報性のルールは絶大であり、大きく3つの効果があります。
1つ目は、見知らぬ人や嫌いな人であっても、親切にされると一つくらいなら要求に応じてもいいと考えてしまうことです。
本来であれば断るような用件でさえ、返報性のルールによって承諾してしまいます。
2つ目は、望んでいない親切であっても、一度受けてしまうと恩義を感じてしまうことです。
ひとたび恩義を感じてしまうと、返報性のルールにあらがうことはできません。
作りたくもない人に対して借りを作ってしまうこともあります。
3つ目は、最初に施された些細な親切に対して、それよりも大きな親切を返さなければいけないという義務感を生じさせてしまうことです。
結果として不公平な交換となります。

返報性のルールにはこのような3つの特徴があり、営業や接客、交渉やクレーム対応など様々なシチュエーションで心理テクニックとして用いられています。
新聞勧誘員が大量の洗剤を持って訪問してくるのもそうですし、無料試供品もそう。
無料で差し上げます、このようなセールス手法があふれているのは、返報性のルールが強力であるという証拠です。

悪用する必要はありません。
ただ、返報性のルールが強力なものであり、知らぬ間に恩義を感じて承諾してしまうのが人間であるということを理解しておけば、人間関係において有利に働くのではないでしょうか。
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