営業経験のある人であれば、「なぜお客さんはYesと言ってくれないんだろう?」「なんであいつはいつも売れるんだろうか?」など、一度はこんなふうに思ったことがあるのではないでしょうか。
初対面の人に対してセールスをする場合、ちょっとしたやり方の違いで成功したり失敗したりします。
営業を分かっていない人はこれを「センス」と一言で片づけてしまいますが、実際は承諾誘導のテクニックの話であり、センス云々は関係ありません。
承諾誘導に必要なのは「影響力」です。
見ず知らずの人にいきなり○○を買ってください、と言われても誰も買いませんが、友人知人の頼み事であれば承諾してしまいますよね。
人間には固定の行動・思考のパターンがあります。
「高いものは良いもの、安いものは悪いもの」「子どもは守るもの」などです。このような自動的な人間行動の原理を理解して営業に応用することで、あたかも相手は自分の意思で承諾したように誘導することができるのです。
他人にYesと答えさせる要因は何か?
その要因を効果的に使って承諾を引き出すためのテクニックは?

今回は、承諾誘導戦術の原理原則について解説したいと思います。
原理原則というのはとても重要です。
表面的なテクニックをまねしても身につくことはありません。原理原則を理解するからこそ応用ができるのです。
人が承諾するときに、「何に影響されているのか」ということを常に考えておく必要があります。
そして、自分が初対面の相手に影響を与えるためにはどうしたらよいかを考えるのです。
「何」が分かればそれを応用するだけです。
動物の行動、たとえば母親としての愛情行動、求愛、敵への警戒、威嚇など生存本能からくる行動には規則的・機械的なパターンがあります。
七面鳥の母鳥は、ひな鳥の世話をする際にピーピーと鳴くひな鳥の声に反応します。

ひな鳥がピーピーと鳴けば世話をするし、泣かなければ何もしません。
天敵であるイタチの人形にひな鳥のテープをセットしてピーピー鳴かせると母鳥はイタチの人形を世話するのです。
まるで、ピーピーという音に母鳥の行動が自動的にコントロールされているかのようです。

動物の行動はパターン化されており常に同じ形式、同じ順序で起こります。
そして重要なのは、その行動を起こす引き金となる要素があるということです。
人間にも自動的な行動パターンがあります。
そのひとつが、「頼みごとをするときには理由を添えると成功しやすい」というものです。
「要請+理由」です。

こんな心理学実験があります。
コピー機の前で並んでいる人に対して、「5枚だけコピーを取らせてください」というよりも「急いでいるので、5枚だけコピーを取らせてください」と言った方が30%以上承諾率が上がったそうです。
さらにおもしろいのは「コピーをとらなければならないので、5枚だけコピーを取らせてください」と頼むのも「急いでいるので…」と頼むのと同じくらいの効果があったということです。
ここからわかるのは、要請に理由を添えると承諾率があがることと、加える理由は何でもいい、ということです。「ので」という言葉に自動的に反応して行動してしまっていると考えられます。
これはある意味仕方のないことだと思います。
一日の間で出会う人や出来事、状況などのすべての特徴を理解し、分析することなど不可能で、そんな能力も時間もエネルギーもありません。
だから、常識や固定観念、経験則に従って物事を分類し、引き金となる特徴や言葉があればじっくり考えることなくそれに対して反応するというのはとても合理的なことであり、また、たいていの場合正しいことが多いのです。
だから「…ので」と言われたときに無意識に助けてあげないといけないな、と反応して承諾するということが起きてしまいます。
自動的に行動させるための要素は、本能的な行動連鎖、心理学的原理、常識・固定観念です。
これらの特徴を含んだ信号刺激を与えることによって人間の自動的行動を引き起こし、承諾誘導することができるようになります。
コントラストの原理は、人を自動的に判断・行動させることのできる一つの例です。
後に提示されるものが前に提示されるものとかなり異なっている場合、後に提示されたものは、実際以上に前に提示された物との差があると感じる原理です。


物を持つ前に別の軽い物を持っていた場合、普通に持つよりも重く感じるという精神物理学の実験データがあります。この原理は、営業の場面においてよく見かけます。
不動産を売る場合、先に条件の悪い物件を提示して、本来売りたい物件をよりよく見せるテクニック、高額なスーツを販売した直後にシャツや靴、ベルトなどの小物を販売するとそれらが安く見えるというテクニックなどがあります。
提示する順番を工夫するだけで、同じものがより良く見えたり、より安く見えたりするのです。
営業のプロは、人間の自動行動パターン原理を理解し、それらを巧みに組み合わせて承諾させることによりモノを売ったり、交渉をまとめたりしています。
人に影響を与える承諾誘導戦術を原理原則から理解して、営業活動に取り入れてみてはいかがでしょうか。
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